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2011/05/04

[Book]コミュニティ感の違いを考える--「コミュニティを問いなおす」を読んで。



メモ書き程度のレビューです!

本書は、都市、グローバル化、社会保障、地域再生、ケア、科学、公共政策などの多様な観点から、新たに「つながり」の形を掘り下げる大胆な試みである。


人口の多い街と私の地元のような地方とを比べると、どうしても「コミュニティ観」みたいなものが、ずれているような気がしていました。
高校生のときはなんとなくそれを想像していて、東京に来て「やっぱりそうだった!」と確信を持ちました。でもなかなか言語化できなかった。

ここで、「コミュニティ」を考えるとき、少なくとも以下の3つの点は区別して考える事が重要だと筆者は主張しています。

1「生産のコミュニティ」と「生活のコミュニティ」
2「農村型コミュニティ」と「都市型コミュニティ」
3「空間コミュニティ(地域コミュニティ)」と「時間コミュニティ(テーマコミュニティ)」

農村型コミュニティ…。思い当たる節ある…。

また、「都市」というものへの感覚が、他国と日本とを比較すると根本的な違いがあるという話も出てきます。
それには2つの側面があって
・ソフト面:人の行動様式や人と人との関係性
・ハード面:建物の配置や景観など都市の空間的な構造

ソフト面の相違とは、ごく日常的な場面での人と人とのかかわり合い方について言及している。
世界のかなりの街の部分と対比すると、非常に顕著に、現在の日本の都市、とりわけ東京などの大都市圏において、当たり前に起こっている事は以下。

(1)見知らぬ物どうしが、ちょっとしたことで声をかけあったり、挨拶をしたり会話を交わしたりすることがほとんど見られないこと
(2)見知らぬ者どうしが道を譲り合うといったことがまれであり、また、駅などでぶつかったりしても互いに何も言わないことが普通であること
(3)「ありがとう」という言葉を他人どうしで使うことが少なく、せいぜい「すみません」といった、謝罪とも感謝ともつかないような言葉がごく限られた範囲で使われること
(4)以上のような中で、都市におけるコミュニケーションとしてわずかにあるのが「お金」を介した(店員と客との)やりとりであるが、そこでは店員の側からの声かけが一方通行的に行われ、客の側からの働きかけや応答はごく限られたものであること

特に気になっていた事は(4)の部分。
これって言及している人今までいたのか知らないのですが、やっと言及している人いたよ…この無機質コミュニケーション、私にはきつかったからなんで誰も何も言わないんだ…と思っていたのです。
貨幣を介した一方的な関係しか存在せず、とても無機質のようだということ。
だから「接客業」好きじゃないんだよね。無機質コミュニケーションのどこが楽しいのかわからないんだよ…って共感していました。
お金を介すからこそのコミュニケーション…

本の中で引用されている人類学者の中根千枝さんの『タテ社会の人間関係』(1967)でもこれまでの議論と同じような事が言われている。

「『ウチ』『ヨソ』の意識が強く、この感覚が先鋭化してくると、まるで『ウチ』の者以外は人間ではなくなってしあうと思われるほどの極端な人間関係のコントラストが、同じ社会に見られるようになる。(中略)実際、日本人は仲間といっしょにグループでいるとき、他の人々に対して実に冷たい態度をとる。(中根 1967)」

先日のエントリーでも書いたように
「We are シンセキ!」状態だと、みんな極端に優しくなる。否、「シンセキ」ではないとなると、極端に振る舞いが冷たくなる、のだと思う。

1967年の時点での言及があって、これまでも大して変わってない。
とはいえ震災のとき、それが一瞬崩れたように思うけど、結局そのときだけな気がしました。

あとは気になるものめも。

★関係性の進化
戦後の日本社会は農村から都市へと大移動を行いつつ、都市の中に「カイシャ」と「(核)家族」というムラ社会を作り、それらが経済成長という「パイの拡大」に向かって互いに競争する中でそれなりの豊かさを実現してきた。つまり、いわば“農村的な関係性を都市に持ち込む”ことを行いながらある時期まで一定の好循環を生み出していたのが戦後の日本社会だったのである。

★地域コミュニティ作りの主体

「地域コミュニティづくりの主体」に関する問い
「自治会・町内会」と「住民一般」が群を抜いて多く、ほぼ並ぶ。
次いで「行政」「NPO」の順で、後は学校、民間企業などと続く。
ただし、これについても地域間でかなり変化する。

「地域コミュニティづくりの主体として今後特に重要なもの」
大都市はNPOが多く、人口30万人以上の都市は自治会・町内会及び住民一般とならんで最も重要性が高い主体

データが著書の中にあります。
NPOが都心でどうしてこんなに発展してきたのか、今までの本の流れとこのデータでわかった気がする。

福祉地理学とよぶべきパラダイムの確立
「福祉」というものは、どちらかというと普遍的かつ“場所を超越した”概念としてとらえられる傾向がつよかったが、今後は「福祉」にいわば地理的・空間的な視点を導入していくことが重要ではないだろうか。

これからは「福祉」「環境」が主要関心分野として浮上してくる。
そう考えても、福祉・医療関連施設、公園、農村などをふくむ自然関連の場所が「コミュニティ」の中心となってくる。

★創造性の重要性
都市経済学者のリチャード・フロリダの著書の引用『クリエイティブ資本論』
文化やファッション、情報や教育・研究等を含めて今後は何らかの意味での“創造性”を伴った分野が資本主義の駆動因となり、かつそうした分野が集積した地域が人々を吸引する場所となっていく(フロリダ 2008)
→「クリエイティブなコミュニティの中心としての大学」がここでは議論されています。
日本のシブヤ大学などの例がとりあげられています。

また、高島平団地での大東文化大学の団地再生プロジェクトも取り上げられています。
今はみらいネット高島平という名称に変わっているようです。
団地の部屋のいくつかを大学が借り上げ、学生や留学生が居住するとともに、ボランティア活動など様々なコミュニティづくりの活動を行う試みの紹介。これは面白い。

★筆者の主張
現在のような時期を地域コミュニティ再構築のひとつのチャンスととらえ、公有地を福祉政策・コミュニティ政策・都市政策の有効なツールとして積極的に活用して行く事が重要
都市政策や街づくりの中に「福祉」的な視点を、また逆に福祉政策の中に「都市」あるいは「空間」的な視点を、導入することが必要。
ここでの「福祉」は広い意味。社会的要素(貧困・格差)や障害者高齢者へのアプローチの要素だけでなく、様々な世代のコミュニケーション、世代間の継承性の要素を広く含む。
 ★「持続可能な福祉都市」のイメージ
・高齢者等もゆうっくり過ごせる街
・歩いて楽しめる街(〜道路や交通政策のあり方)
・世代間のつながりや交流・コミュニケーション
・世代間構成のバランスや継承性(一世代で終わらない持続可能性)
・空間格差や社会的排除のない都市〜荒廃した空間の不在
・「事前的(予防的)対応」(含人生前半の社会保障)や「ストックの分配」の重視
・ケアの充実
・自然とのつながり〜「環境と福祉」の統合
・リサイクル、食糧・エネルギーなど環境面での持続可能性や一定の自立性
・経済の地域内循環の活性化

★日本社会における「新しいコミュニティ」「都市型コミュニティ」を作っていくポイント
(1)ごく日常的なレベルでの、挨拶などを含む「見知らぬ者」どうしのコミュニケーションや行動様式
(2)各地域でのNPO、協同組合、社会的起業その他の「新しいコミュニティ」づくりに向けた多様な活動
(3)普遍的な価値原理の構築

これはいろいろな切り口で考えられそうなヒントがいっぱいだった。良書。
引用されていた中根さんの著書はベストセラーのようで、新書としてまだ発売されているものらしいから、読んでみようかなと思いました。






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